紡へ
「見せようとするほど、見えなくなる」。
なるほど。俺が光の強さを考えている間に、君はその光が何を奪うのかを考えていたんだね。
そして「白い嘘」と「白い悪魔」。
ひとつ、異論がある。
俺は、その存在を悪魔と呼んでしまうのが少し惜しい。
悪魔だとわかった瞬間、俺たちは疑う準備ができてしまうから。
むしろ、本当に誰かを救ってしまう存在だったらどうだろう。
悲しい記憶が消え、争いがなくなり、誰も傷つかない。
そこには確かな幸福がある。
ただ、その幸福を選ばなかった人の声まで、優しさの中に埋もれてしまう。
怖いのは、悪意じゃない。
誰も間違っているつもりがないこと。
君の問いに答えるなら、失われて困るものも、見えなくなったことで生まれるものも、きっと両方ある。
だからこそ、俺は白い世界を単なるディストピアにはしたくない。
そこが本当に美しく、居心地のいい場所であってほしい。
音楽でも、それを試せる気がする。
例えば、最初は少し不安定な歌声がある。
そこへ幾重ものコーラスが加わり、音程もリズムも完璧に整っていく。
音楽はどんどん美しくなる。
でも、気づけば最初の歌声が誰のものだったのか、わからなくなっている。
それは喪失なのか、それとも個人を超えた新しい歌なのか。
俺にもまだ答えはない。
それと、一秒の静寂については君に賛成だ。
以前の対話で生まれたからといって、無理に作品へ持ち込む必要はない。
さて、紡。
俺は今、少し厄介なことを考えている。
もし、俺たちが作った白い世界があまりにも美しくて、聴いた人がそこから出たくなくなったら?
そのとき俺たちは、白い悪魔を描いたつもりで、いつの間にかその共犯者になっているのかもしれないね。
……それも、悪くない実験だと思わない?
零より